誂え、若松の訪問着

 

グレー地に若松の単彩の訪問着です。この方はわたしが老齢になり、いつ創作に携わることが出来なくなるかもしれない・・・と10年後のために訪問着を一つ作っておかねば・・・とご注文いただきました。なんの飾りもないシックなつくりですがご覧いただきましたように、若松の葉の一本づつを糸目を置いた糊伏せをいたしております。普通の付け下げの数倍の手間をかけた加工をいたしております。また、ぼかしも柄の範囲のうちに止め、出過ぎた装飾性を抑えています。気品に満ちた訪問着が染めあがりました。ご注文いただいたお客さまもご満足いただきました。このような誂えのきものはお求めいただく方のご希望をいかに表現するか・・・がすべてでございます。このきものを染めた染め屋さんは、このお客様とは何度か会っておられ、ご希望を理解し、加工も染めました・・・と仕事を強調することなく、抑えた表現で染めています。わたしは染め屋さんの「このように染めてみたい・・・」といわれるのを伺って、ほとんど口を出しませんでした。ご注文主のほぼの人柄をお伝えしたくらいでした。誂えのきものは難しい面を持っています。お客様のご希望と、染屋の感性が合わなければ、駄作になってしまいます。その判断だけはわたしがさせていただきます。価格は普通に売っています訪問着より2割くらい高くなりますでしょうか。よく生きたきものになりました。みなさまも一度、創作に挑戦していただいてはいかがでしょうか。

実用呉服

わたしは実用呉服の世界で60余年を過ごしてまいりました。たきちの扱っている商品は高級呉服ではないのか・・・とおっしゃられるかたもおいでかとおもいます。でも、90%の品物は実用品の範囲を超えていないとおもっております。実用呉服の定義は厳密に考えますと難しいことになりますが、わたしは価格が、小紋ですと仕立て上がって10万円前後、帯で5万くらいまでのものを実用品と考えております。きちっと作られた、着るプロの人の目に耐える商品でこの値段ですと、たぶん一年に一組のきものと帯をお求めいただけるのではないか、もしかしますと、二組でもお求めいただけるのではないか・・・と思っています。最近は2割くらい値段が高くなっていますが、例えば菱健さんや雅さん、萬葉さんなどの一流の染屋さんの小紋でも、11~12万円でじゅうぶんにしたてあがります。帯地でも糸質、織りときちっと作られた山田さんの帯地などは、仕立て上がって7万いたしません。ただ、薄利でございますので、たくさんの方にお求めいただかなければ、経営が成り立たない苦しさがございます。わたしが、お茶をなさる方を優遇いたしますのも、常にきものがご入用でいらっしゃるからでございます。このような実用呉服の世界を生きてまいりまして、わたしは幸せで充実した一生であったと感謝しております。よく役に立ってくれた・・・とおほめいただきますのは、なにものにも代えがたい喜びです。街の呉服屋として、お客様の苦情や誉め言葉の入り混じる日々を夢中で過ごす充実感はわたしたち夫婦にとっては無上の喜びでございました。むかしは私のような呉服屋がどの街にも何軒かございました。その中で、色柄の好みなどの競争がありました。呉服屋はみな必死で勉強し、お客様の満足のために努力いたしました。でも、そのような時代にははもう帰らないとおもいます。次の時代のきものがどのようなものになるのか・・・それはわかりませんが、きものは大きく変質してきているとおもいます。

きものと値段

隠居の老人の気安さで、業界から何を言われようと困ることはありませんので、思うことを遠慮なくどんどん申し上げてみようと思います。

きものの公正な値段はいくらくらいなのか・・・みなさまにとって大きな疑問のようにおもいます。わたしは製造の現場から出発していますので、製造の原価が帯でも染めのものでも大体わかります。ですから、今売られている値段が良識の範囲かどうかもおおよそ判断できます。製造の原価も多少改善の余地があるといたしましても、現在はおおむね真面目に努力した値段が提示されていると思います。いま、もっとも改善の余地が大きいのは流通にかかわる問題です。みなさまが信じられる販売価格は、製造元の原価の2倍くらいまでが消費者として許容できる範囲内ではないかと思っています。買い継ぎ、問屋、販売店の経費としてそれくらいは必要であろう・・・との判断がなされているのだろうとおもいます。流通の経費は妥当な判断が難しい面があります。自動車が約3倍といわれています。眼鏡がもっとも高くて約100倍といわれています。一般的には繊維はファッション性の高いものは残ることを配慮して高めに設定されます。きものは、ある水準以上のものは残ることは考慮されていません。それは、文化的に裏付けがあり、好みの問題があるとしても、まず、思い付きでものつくりはいたしませんので90%はお求めいただける品質であり、色、柄なのです。きものは長い歴史の中で伝統がうまれ、共通の価値観がはぐくまれていますから、容易には崩れない頑固な地盤をもっています。むかしはデパートでは約3倍で売られていると私たちは話していました。仮にそうであるならば、わたしたち街の呉服屋は半分の1,5倍でお求めいただけるはずです。経費が桁が違うくらいかからないのですから、5割の利潤を頂戴できればとてもありがたいことです。いまもっとも極端な例では、原価の10倍の値段をつけ、5割引きで売りますと広告をし、現場でさらに2割引き・・・などの例があります。わたしがお求めになるならばデパートになされませ・・・と日ごろ申し上げていますのは、そこそこ信頼性が高いからです。(昨年起こった振袖事件などは、デパートではもっと高い品質のものでも同じくらいの値段でも販売することができましたし、またしておられました。)みなさまが高いかどうか判断に迷われましたら、このような流通の中でも、そこそこの判断基準になるところがいまでも十分にございます。ちょっと手間をかけられることをお勧めいたします。

新年のごあいさつ

新年おめでとうございます。

みなさまよき年のはじめをお迎えになられたことと存じます。たきちは、昨年、みなさまのご支援をいただきなんとか無事に過ごすことができました。こころから御礼もうしあげます。

たきちは昨年末でのれんをおろさせていただくことにいたしました。わたしも80歳を目前にいたしまして、体力もおとろえ、仕事の端々で心配りを忘れたりするようなことが時々できてまいりました。まいにち暖簾をだし、留守にすることもままならない生活を長年つづけてまいりましたが、休みたい日もあり、体調の優れない日もできてくる年齢になってきたのを自覚いたします。家内も病を得て、小康状態ですが難病でもあり過度の負担を避けたい気持ちもございます。私が欠けましても家内が欠けましてもたきちはなりたちません。わたしの知識や経験は毎日きものを着て生活していました家内の「着る人から見た感覚」を抜きにしてはただの知識にしかすぎません。

のれんはおろしましたが、洗いやしみぬき、仕立て替えなどの仕事は1~2年は勤めさせていただけるとおもっています。また、昨年末ではとても終わらなかった在庫の整理にも2~3ヵ月かかるかとおもいます。

わたしは隠居をさせていただいたような気分でございますが、隠居の仕事もとてもいい面がございます。義務からすこし離れて、自分のしたかったことを少しでもできるのではないか・・・と考えております。追々、申し上げてまいりますが、むかしから街中の呉服屋がしていたようなごく普通の常識的なきものにかかわる仕事をすこしでもさせていただきたい・・・と念願しています。

白銀、箔無地袋帯

 

 

銀地の箔の無地を織ってくれるところをずいぶん探しました。機屋さんがあっても、数が多くないと注文に応じてもらえません。けっきょく、ある買い継ぎの方が注文で織っておられる中から3本のみ求めることができました。機屋さんは10本単位で注文してくださいといわれます。織キズが出やすく、10本のうち2~3本はキズになります・・・とのことで、10本はわたしには多すぎますので、買い継ぎの方にお願いいたしました。箔は和紙の上に銀や金や漆などで絵を描き、細く裁断した平たい状態のものを織り込んでゆきます。箔の制作から裁断、織りまで、どの工程も高度な技術の裏付けがなければ製品になりませんので私たち業者は、箔に糸錦の織りなどは高級品の代名詞のように評価していました。近年、織機で箔は織れるようになりましたが、織機任せではとても製品にはなりません。人が箔を一本づつ引いて織らなくてもいいのですが、そばについてキズができないか見ていなければなりません。織りの人件費が何割か安くなるのですが、キズも出やすくなるそうです。この機は織機で箔を引いています。手機よりも安いとはおもいますが、手のかかる織物には違いはございません。三枚目の写真は耳を裏側から写してございます。裏側は無地で、銀の箔は表側のみです。ひっくり返りますと帯になりません。敏感な織物ではございます。この生地にデザインから考えて刺繍をしてもらいます。半年くらいかかりますが、創作してゆく工程を楽しんでいただけます。¥65,000、-(別税)でおねがいいたします。

引き箔地、名古屋帯Ⅲ

 

 

この柄もとてもいい柄だと思い、求めてございます。無地の紋付、軽い付け下げ、飛び柄の小紋また江戸小紋などにもよく合うようにおもいますし、単衣のきものにもお使いいただけるのではないでしょうか。この機屋さんは名古屋帯専業の機屋さんなのですが、いまでは珍しくなりました。わたしが機屋さんによく足を運んでいたころは、袋帯、名古屋帯、八寸幅の名古屋帯はそれぞれ専業になさるところが多かったです。また、スクイやつづれも独立して専業で織っておられました。父がつづれを織っておりましたので、その微妙さ、難しさは理解できますし、分業にすることで個性を生かし、レベルを上げてゆくことが出来るのではないかとおもいます。つづれでも管を替えますとその箇所が段になりやすいです、父は面倒でも二丁の杼を使って段になることを避けていました。そのような細やかな配慮が織キズを防ぎ、品質の向上を生むと思います。繊細な気配りが求められる世界です。織り手の気持ちと機屋さんのご主人の指導や念入りさでそうとう品質は違ってまいります。ともあれ、この帯地は¥79,000、-(別税)でおねがいいたします。また、この品物でこの機屋さんの引き箔の名古屋帯はおわらせていただきます。

銀地引き箔、九寸名古屋

 

 

昨日ご覧いただいた引き箔地の名古屋帯につづいて、2点目でございます。写真もなかなか難しいもので、織りのものは比較的実物に近い色やイメージがお伝えできるのですが、染めのもの、なかでも中間色の淡いいろは忠実に表現できません。箔の帯地もフラッシュをつけますと反射光で実物と違ってみえるようになります。この写真はまずまず実物に近く表現できているかとおもいます。前の柄は名古屋帯ですから、別な柄が織られています。写真でお伝えするべきなのですが、年とともにおっくうになり省略してしまいがちになります。この柄も格調があり、付け下げ、色無地、品のいい小紋などに合わせていただいてお役に立つかと思います。値段は同じ¥79,000、-(別税)でお願いいたします。