むずかしい付け下げ

 

 

とても難しい付け下げをごらんください。わたしはこのような感性の付け下げはこれまで避けてまいりました。一つには、この世界にはまり込んでしまいますと限度というものが無くなりますので、とめどなく追及してしまいます。きものの世界ではなく絵画の世界に入ってしまいます。そこまでのゆとりは私には許されていないのですが、家内がとても気に入って是非・・・と申しまして求めました。染めたところも値段もここでは申しあげれません。この着物を含めて私の取り扱っていますきものや帯は広い意味での琳派の世界です。琳派は公家、大名などの支持した狩野派、土佐派などのファインアートと呼ばれる純粋芸術に対して、台頭してきた町人の富裕層に支えられて生まれた生活芸術が発祥です。俵屋宗達は扇を制作していた工房のデザイナーでした。尾形光琳は雁金屋という呉服屋の次男でした。みなさん生活の中で求められる芸術性を追求してとても大きな支持を勝ち取りました。琳派は陶磁器から漆工芸まで生活全般にわたって芸術性を求めました。この作品をご覧いただいて、漆器の蒔絵を想像なさった方もおいででしょう。また、朝靄のおぼろに見える景色を想像していただいてもいいと思います。琳派は日本の美しく穏やかな気候風土から生まれました。日々の暮らしを通して、どなたもきびしい鑑識眼をそなえておられます。それだけによほど腕のいい職人さんたちの集まりでないと水準の高いものが作れません。十分に皆様の目に耐える着物だとおもいます。お楽しみいただければ幸いです。