きものと値段

隠居の老人の気安さで、業界から何を言われようと困ることはありませんので、思うことを遠慮なくどんどん申し上げてみようと思います。

きものの公正な値段はいくらくらいなのか・・・みなさまにとって大きな疑問のようにおもいます。わたしは製造の現場から出発していますので、製造の原価が帯でも染めのものでも大体わかります。ですから、今売られている値段が良識の範囲かどうかもおおよそ判断できます。製造の原価も多少改善の余地があるといたしましても、現在はおおむね真面目に努力した値段が提示されていると思います。いま、もっとも改善の余地が大きいのは流通にかかわる問題です。みなさまが信じられる販売価格は、製造元の原価の2倍くらいまでが消費者として許容できる範囲内ではないかと思っています。買い継ぎ、問屋、販売店の経費としてそれくらいは必要であろう・・・との判断がなされているのだろうとおもいます。流通の経費は妥当な判断が難しい面があります。自動車が約3倍といわれています。眼鏡がもっとも高くて約100倍といわれています。一般的には繊維はファッション性の高いものは残ることを配慮して高めに設定されます。きものは、ある水準以上のものは残ることは考慮されていません。それは、文化的に裏付けがあり、好みの問題があるとしても、まず、思い付きでものつくりはいたしませんので90%はお求めいただける品質であり、色、柄なのです。きものは長い歴史の中で伝統がうまれ、共通の価値観がはぐくまれていますから、容易には崩れない頑固な地盤をもっています。むかしはデパートでは約3倍で売られていると私たちは話していました。仮にそうであるならば、わたしたち街の呉服屋は半分の1,5倍でお求めいただけるはずです。経費が桁が違うくらいかからないのですから、5割の利潤を頂戴できればとてもありがたいことです。いまもっとも極端な例では、原価の10倍の値段をつけ、5割引きで売りますと広告をし、現場でさらに2割引き・・・などの例があります。わたしがお求めになるならばデパートになされませ・・・と日ごろ申し上げていますのは、そこそこ信頼性が高いからです。(昨年起こった振袖事件などは、デパートではもっと高い品質のものでも同じくらいの値段でも販売することができましたし、またしておられました。)みなさまが高いかどうか判断に迷われましたら、このような流通の中でも、そこそこの判断基準になるところがいまでも十分にございます。ちょっと手間をかけられることをお勧めいたします。