誂え、若松の訪問着

 

グレー地に若松の単彩の訪問着です。この方はわたしが老齢になり、いつ創作に携わることが出来なくなるかもしれない・・・と10年後のために訪問着を一つ作っておかねば・・・とご注文いただきました。なんの飾りもないシックなつくりですがご覧いただきましたように、若松の葉の一本づつを糸目を置いた糊伏せをいたしております。普通の付け下げの数倍の手間をかけた加工をいたしております。また、ぼかしも柄の範囲のうちに止め、出過ぎた装飾性を抑えています。気品に満ちた訪問着が染めあがりました。ご注文いただいたお客さまもご満足いただきました。このような誂えのきものはお求めいただく方のご希望をいかに表現するか・・・がすべてでございます。このきものを染めた染め屋さんは、このお客様とは何度か会っておられ、ご希望を理解し、加工も染めました・・・と仕事を強調することなく、抑えた表現で染めています。わたしは染め屋さんの「このように染めてみたい・・・」といわれるのを伺って、ほとんど口を出しませんでした。ご注文主のほぼの人柄をお伝えしたくらいでした。誂えのきものは難しい面を持っています。お客様のご希望と、染屋の感性が合わなければ、駄作になってしまいます。その判断だけはわたしがさせていただきます。価格は普通に売っています訪問着より2割くらい高くなりますでしょうか。よく生きたきものになりました。みなさまも一度、創作に挑戦していただいてはいかがでしょうか。