心に残る昨年の作品、風神雷神

 

この作品もお納めできましたのは12月の27日という年の暮れでした。昨年の夏ころから原案にとりかかり、そうとう難しい作品でしたので10月まで推敲に推敲を重ね、自分にできるだろうか・・・と途中で自信を失った時期もありました。見本になったのは田村哲彦の付け下げだったのですが、お客様は訪問着をご希望でした。また、田村さんの付け下げが私にはおざなりの作品のように感じられ、見本にはならない・・・と思っていましたからどれだけ自分が満足できる作品に作れるか・・・も重荷ではありました。呉服屋としてこんな難しい作品に挑戦して成功する率は低いと覚悟をしての出発だったのですが、出来上がりはお客様からもおほめいただける作品になりました。染め屋さんの功績です。お召しいただくのが1月の半ばですので、着用の写真を添えれないのですが、すばらしい染め上がりだと自画自賛しています。

途中でほうりだしたようなお釈迦様のおはなしも自分としては心にかかることですので、少しづつ書いてゆきたいと思っています。近年、インド学が長足の発展を遂げ、仏教にかんしても研究がとても進んでいます。お釈迦様が生きておられた紀元前500年ころの当時は文字が開発されていませんでしたから、パーリ語で話されたお釈迦様の言葉も口伝で数百年語り伝えられていました。文献として残っていませんので真実のことばなのか・・・疑問がありました。その点も仏教の五派の仏典を突き合わせ、口伝との比較などの研究からクリアでき、お釈迦様の悟りの核心の部分が明らかにされてまいりました。もっとも、悟りの内容は少なくとも私には理解はできません。ただ、思索をなされたテーマはおぼろに指し示されているように感じます。全体をとおして、わたしが知りたかったのは、お釈迦様の教えががなぜインドにおいても、また中央アジア、東南アジア、そして中国においても圧倒的な支持を受け、人々の心をとらえ、国の在り方を変えるほどの影響を与えることが出来たのは、何によってなのか・・・という点でした。わたしなりに推測いたしますのに、お釈迦様の言葉を聞き、お考えを聞いた人は、国王も庶民も明日への希望を持って生きることが出来ると確信を持てたのではないか・・・と思うのです。この方の思想は明るい将来をもたらしてくれる・・・と信じられたと思います。それは、お釈迦様の思索と悟りからもたらされた考え方で、当時のインドにあっては異端の革命的な思想だったと思います。あまりにも大きなテーマになってしまいますのでどこから申し上げてよろしいやら、困っております。手探りながらゆっくりと申し上げてみたいと思っています。