最後の手描き小紋

 

 

 

 

 

 

2か月ほど前ですが、お客様のご注文で手描きの小紋に取り掛かってることを申し上げていました。染め上がりをご覧いただきたいと思っていたのですが、染めが上がりましたので最後の一反としてご覧いただきます。じっさいにこのような小紋を染めますには、付け下げの3倍4倍の職人の手間を必要といたします。付け下げの緊張度より少しは緩いかもしれませんが、全体を通してバランスがとれていなくてはなりませんから、頭の中ではどのような構成にしてゆくか・・・・いつも生地と会話しながらの色挿しです。よほどのベテランの職人でなければ任せれる仕事ではありません。この柄は2尺の図案の繰り返しですので、下の写真の5枚は同じ構図です。色挿しが一枚一枚全部異なっているのをご覧いただけると思います。一反全体をこのように挿し色を替えながら雰囲気を変えず染め上げなければなりません。職人としてはやりがいのある仕事です。でも、仕事を出す染め屋さんとしては、付け下げの倍の値段はもらえませんし、職人には相応の手間を払わなければなりません。ベテランの職人の方たちが少なくなるにしたがってこのような重い加工の小紋は作りにくい時代に入ってまいります。今後のご注文には応じれません・・・と言われておりますので、この作品でわたしも終わらせていただきます。このような染め物を自分の最後の時期の仕事として与えていただいたことに大きな喜びと感謝をいたしております。また、高い染め物にもかかわらず、染めの手間や価値をご理解いただき、白紙の状態から染め上がりのイメージ、色挿しの感覚など何度かご希望を伺っての染めだしなのですが、信頼いただいてお任せいただいたお客様に敬意と感謝を申し上げます。