創作の訪問着

 

この訪問着は仕舞や鼓をなさる方のための創作品です。実は、この訪問着の創作もわたしは蚊帳の外でございまして、お客様が染め屋さんと二人で相談なされ、決まってから私にも賛否の意見を求められました。糊糸目の作品ですから、どの職人が糸目を担当するのか、親方しだいです。作品の構想を聞いて、信じて任せるよりいたしかたございません。わたしは染屋のご主人は大工の棟梁のようなものだと思っています。腕のいい大工さんを手元に置いて、腕を十分に発揮してもらえるように運ぶ・・・職人が心服して能力を発揮できなければいい作品は作れません。上の写真をご覧いただきましたように、糊糸目の作品ですから、職人の個性が十分に表現されています。一点作るものとして十分な力作です。また、下の写真の左をご覧いただきたいのですが、染め上がりがどのようになるか・・・わからないので試作をしております。このようなものの作り方は、戦後、苦心して作品を向上させたいと一つ一つの作品に向かい合ってきた人間の発想です。わたしはこのような生き方が好きなのです。苦境に立った時、営業で切り抜けるのではなく、作品に集中して、より良きものに作り、お客様の信頼を得て生き抜いてきているのです。蚊帳の外に置かれましたが、とても喜んでいます。いい訪問着になりました。