金魚柄の夏帯。

 

糊糸目の金魚柄夏帯です。お求めいただいた方は19歳のお嬢さん。お母さんと一緒にお越しになられ、もう一点の夏帯と一緒にお求めいただきました。きものがお好きで、普段にもよくお召しになられ、お母さんやおばあちゃんの古いきものを仕立て替えてお召しになっていらっしゃるように伺っています。ゴム糸目の量産品でよろしいように思うのですが、お母さんがよくご存じの方で、できれば本物を・・・とお嬢さんを誘われておこしいただきました。やがて成人なされて、ご自分でデパートなどでお着物を選ばれるとき、思い出していただけるだろうとおもいます。染めの最前線で生きている人がどのように考え、どのように制作してゆくのか・・・このクラスのきものや帯は一点一点手作りで制作してまいります。もともと糊糸目そのものが横に並べて次々と糊を伏せてゆく・・・ことはできる技法ではありません。伏せる生地のシボや湿度、糊の固さなど一点ずつ生地に添って伏せなければいい糸目は置けません。その呼吸を感じていただければ大成功とわたしは思っています。

いままでホームページでは申し上げていなかった染め屋さんの予定を今回はホームページでご紹介させていただきます。メールで連絡が取れないお客様方があり、郵便でお伝えしていたのですが、私がなかなか手紙を書きにくい体調でして、このような方法をとらせていただきました。4月の今回は28日(水)午後2時~6時、29日(木)午前9時~12時、午後1時~6時、30日(金)午前中と時間を取っていただいております。三日間の予定は初めてのことですが、十日ほど前に調整いたしまして、一日半か二日になると思います。うかがいますと創作品のご注文が結構多く、お忙しいようです。みなさまにおかれましては、お仕事との調整などご無理なことも多いかと存じますが、早めに日取りをお考えいただけないでしょうか。染め屋さんの指定で、一時にお目にかかります方をお二人までと言われております。それは売り上げを求めるのではなく、作り方やそのプロセスを十分にご理解いただきたい・・・展示会のような発想でおめにかかることはしたくない・・・と最初に念を押されていますので、3人様、4人様と同時に集まっていただけないのです。多少の譲り合いは出来ますのでわたしはご要望に応じたいのですが、じっさいにデザインの話などなど核心の部分になりますと、おひとりが理想だということはよくわかります。わたしにとりましても何ものにも代えがたい貴重な瞬間でもあります。創作はある瞬間の勘でもあります。多くの経験を積んできていますので、無難なきものをついつい志してしまうのですが、まったく違う世界を目の前で展開されますと、その夜は寝られないほど興奮いたします。それは染め屋もお客様もおなじらしく、翌日電話などで話しますとまた延々と話が発展いたします。ありがたいことです。どうぞみなさま早めのご予約をお願いいたします。

中国史。

昨年、私の読んだ本の中でもっとも面白かった本が、この岩波から出ました新書の中国の歴史シリーズでした。先日、入院で誰にも会えない2週間に思い出して読み返してみました。アンカーの岡本先生は京都府立大学の先生で、以前からユーラシア大陸を俯瞰なされての東洋史がすばらしく、愛読させていただいていました。さいきんの中国の発言や発想そのものが理解できないことが多いと感じているのですが、このシリーズを一読しまして、中国のものの考え方、その実践方法など、なるほどこのような経験を基礎にしてものごとを進めようとしているんだ・・・と、納得はできなくても少しは理解できたかも・・・と思っています。じっさい、中国に在住していますと、中東など西への関心が大きく、日本に住んでいてはわからない姿が見える・・・と中国在住の方のお話にも聞きます。余談ですが、かってイギリスは中国にアヘン戦争をしかけ、世界中忘れることが出来ないひどいことをしたように私などは思っていますが、岡本先生のお話ですと、当時のヨーロッパと中国の関係において、中国のお茶、陶器、シルクなどの輸入が圧倒的に入超で、通貨の銀が中国に滞留し、国際的に決済が困難な状況になっていたのだそうです。インドを植民地としていたこともアヘンに直結した事情はあったのだと思いますが、善悪の話ではなく、日本でもかってBIS規制など、日本いじめと感じることが多かったのですが、もうすこし視野を広げて考えることも必要ではないだろうか・・・などとも思ったりいたします。やはり、アヘンでなく入超を緩和すような方法を協議し探ることも大切なことではなかったろうか・・・ご一読いただきますと、中国のニュースのたびに感じる消化不良はすこしは緩和したように感じています。ご一読をお勧めします。

新しいぼかし付け下げ。

 

 

わたしの写真の腕ではとても魅力をお伝えできません。最初に拝見したとき、若いお客様が同席されていたのですが、思わず是非お召しいただきたい・・・と申し上げていました。数色をぼかしてございますが、そこにお召しになられる方のお好みの色を一色ぼかしで入れてもらいます。地色もすこし明るく、若々しい色になされ、お好みの一色はピンク系の淡い色になさいました。染め上がりはイメージが生かされて素敵なさりげない晴れ着になりました。このきものはすでにデパートでわずかですが発売されています。求められた問屋さんは、わたしも存じ上げているのですが、筋金入りのいいもの屋として有名です。はじめてご覧になられて即刻数点注文なさったと聞きます。私の特上品のレベルばかり大変な数の在庫をお持ちです。わたしのお客様でも、この社の展示会でお求めなされる客様がおいでです。でも、私はたとえわたしの価格の三倍しても特上のしなものが多い方がいい・・・と思われるのも、きもの業界にとってはかけがえない大切なお客様だと思っています。わたしは、若いころから毎日がきもの・・・のお客様の御用を勤めてまいりました。安くなければいいものを着続けることはできません。実用呉服がわたしの仕事・・・と思っていますので、有名でありたいわけではなく、まいにちが褒められたり叱られたり、一緒にきものを作らせていただくことが喜びでしたし今も変わりはございません。このような老人になりましても変わりがなく毎日感動したり、考え込んだりいたしております。同じ喜びを共有している人があります。このぼかしを発想し、商品まで持ってきた人です。私より少し若いのですが会うと開発の話で時を忘れて話し合います。彼にとっても私を感動させることは、きっと着る人も感動してくれる・・・と思っていてくれるのでしょう。このきものはお召しになられましたら写真をいただいてご覧いただきたいと思っています。

新しい発想の絽の付け下げ。

 

 

このような絽の付け下げを拝見したのは初めてです。なんともおしゃれ心がありながら、品のいい雰囲気を持っています。染め屋のご主人の発想の付け下げです。いま、染め屋さんはとても苦しい状況です。多くの染め屋さんは開店休業状態です。営業もままならず、わたしの知る範囲ではまったく制作していない染め屋さんもあります。売り先の専門店がほとんど動いていませんし、デパートの展示会なども、数字を聞きますとそうとう苦境だと思わざるをえません。その中で、新しい魅力のある作品を作って乗り越えてゆこう・・・という考え方は私は好きです。じっさいに、この付け下げも、私が入院中に持参なされ、お気に召したお客様がお求めいただきました。わたしは蚊帳の外でしたが、帰宅して作品を拝見して、私でも求めたね・・・と思わざるをえないほど魅力的でした。このような時代にあってこのような考え方で生き抜いてゆくのもなんとも楽しいではありませんか。わたしが支持したい気持ちもご理解いただけると嬉しいことです。

創作の訪問着

 

この訪問着は仕舞や鼓をなさる方のための創作品です。実は、この訪問着の創作もわたしは蚊帳の外でございまして、お客様が染め屋さんと二人で相談なされ、決まってから私にも賛否の意見を求められました。糊糸目の作品ですから、どの職人が糸目を担当するのか、親方しだいです。作品の構想を聞いて、信じて任せるよりいたしかたございません。わたしは染屋のご主人は大工の棟梁のようなものだと思っています。腕のいい大工さんを手元に置いて、腕を十分に発揮してもらえるように運ぶ・・・職人が心服して能力を発揮できなければいい作品は作れません。上の写真をご覧いただきましたように、糊糸目の作品ですから、職人の個性が十分に表現されています。一点作るものとして十分な力作です。また、下の写真の左をご覧いただきたいのですが、染め上がりがどのようになるか・・・わからないので試作をしております。このようなものの作り方は、戦後、苦心して作品を向上させたいと一つ一つの作品に向かい合ってきた人間の発想です。わたしはこのような生き方が好きなのです。苦境に立った時、営業で切り抜けるのではなく、作品に集中して、より良きものに作り、お客様の信頼を得て生き抜いてきているのです。蚊帳の外に置かれましたが、とても喜んでいます。いい訪問着になりました。

 

 

 

誂えのきもの

 

みなさまご無沙汰いたしております。コロナの騒ぎでたきちも半分お休みのような雰囲気なのですが、コロナ騒ぎが収まってからのきものを考えて作っておかなければならない方々もいらっしゃいます。また、なにがあってもお好きで創作に参加なさる方もいらっしゃいます。この方は、たきちばかりでなく、お仕事の関係上百貨店からもお求めになっておられます。ですから、値段のことも視野が広く、私どもにお越しいただいているのは、創作のアイデアや着物つくりに自分も参加し、一つ一つに心込めた作品が作れるから・・・だと存じています。京都の染屋さんまでお越しいただけるようにいたしてございますが、東京で会えるなら便利なことこの上ないとよくご参加いただいています。

上の写真は色の出も悪く、ご覧いただきたくないような写真ですが、下の上前のアップの写真は実物に比較的近いかと思います。このきものは、染屋の親方がこのお客様のお好みをよく弁えて、一点のみ創作して持参なされました。わたしは入院中でいなかったのですが、お客様はとてもお気に召してお求めになられたそうです。そうなんです。このレベルのお客様になられますと、中間の呉服屋は必要はありません。染める人と着る人の二人でお創りになられます。そして、この姿が私の最も望んでいることなのです。店がありますので、足場として、集会所のような感覚でお客様がお越しいただく・・・そのような場所に・・・とおもっていました。80歳を超えて、いくばくかの経費は頂戴しているのですが、この上なくたのしい仕事をさせていただいています。

下の写真は糊糸目の腕の立つ職人の手になる冴えた染めの付け下げです。わたしはこのような作品に出会いますと、感動します。染めを指揮する親方、そして、その指示を受け止めて腕の限り表現する職人。評価できるお客様・・・・わたしが携われることがこの上なくうれしいことです。

入院

みなさまに笑われそうですが、わたし、コロナの疑いで2週間入院いたしておりました。わたしは、みなさまご存知のように、肺線維症(間質性肺炎)の患者です。少し息苦しく、診察をお願いしましたら、病院についたところで、完全武装の先生と看護師の方々に迎えられ、その場でPCRの検査がありました。陰性だったのですが、20%の可能性があるので、完全隔離で、部屋から一歩も出られない生活が2週間あり、帰宅を許されたのですが、糖尿の先生がどうしても調整に時間がかかるとのことで、よぶんに土日をはさんで5日間、結局留め置かれました。ようやく帰宅いたしまして、リハビリの方にお越しいただきながら歩行訓練中でございます。間質性肺炎は症状がコロナによく似ていて、診察を依頼されるとまずコロナを疑うとのことで、まず、隔離のために病院に行ったんだ・・・とおもいました。長く診ていただいている先生ですので信頼していますから、指示の通り過ごしました。なんとも貴重な経験をさせていただきました。医療現場のみなさんの厳しい現状も充分に拝見しました。たいへんな毎日を緊張をもって過ごしておられることに、敬意を払わずにはいられない気持ちでした。以前よりも炎症の数値もさげてもらえ、元気な状態です。まず、遅まきながらご挨拶申し上げます。