真糊、琳派 波の柄付け下げ

 

 

 

真糊の付け下げの優れものをごらんください。江戸時代から明治にかけて防染の糊はもち米を固く練り、筒状の入れ物から絞り出して糸目糊を置いていました。ゴム糊が輸入されて、ごく細い糸目糊がおけるようになり、手描きの友禅にとっては大きな味方ができました。ごく細い糸目を置き、繊細な絵模様を描けるようになったのですから、長足の進歩といっていいとおもいます。また、防染も完璧ですから、強い赤の隣に白を置いても色のにじみなどが起こりません。万能の糊のように思われ、現在では以前の真糊を使う友禅はほとんどなくなりました。たぶん、問屋さんや呉服屋さんでも真糊をご存知のない方が多くなられたと思います。でも、少数ですが真糊の味わいが好きでお求めいただく方もいらっしゃいます。真糊は防染のための線がどうしても太くなりますので、シャープな絵になりにくいです。太くなったり細くなったり、定規で引いたような線はどうしても置けないのです。ゴム糸目を比べますと一見下手な糊置きのようにみえます。でも、日本の自然はもともと穏やかで、木々の枝ぶり、水の流れ、朝もやに煙るかやぶきの屋根の家並み、どれ一つとっても鋭さからは遠い風景がおもいだされます。真糊の友禅はそのような感性を表現するのにはとても適した技法でもあります。でも、真糊は職人の技術でまったく違う世界になってしまいます。難しい・・・です。気温や湿度に影響されやすく、その日の気持ちがすぐに出てしまいます。わたしは漆の塗りの世界に近いようにおもっています。焼き物に例えますと、磁器と陶器、石ものと土ものの違いのようにおもっていただけるでしょうか。この染屋さんが、琳派の波となずけられましたのも、ゴム糸目の完璧さからほど遠い、職人の気持ちがそのまま線に表れている染め上がりに琳派をイメージされたのでしょう。この付け下げは訪問着仕様になっています。胸の柄は衿にも袖にも通っています。裾回しは付いていませんが格は重い作りになっています。まあ、威張らない礼装のおきものと申せましょう。地色は鶸色ともうしましょうか、若草色に近い若竹のような地色です。上品な付け下げのひとしなです。染め屋さんも値段も表記できませんが、お気に召していただく方がいらっしゃいますことを祈念いたしております。