菱健、新作小紋

 

 

きょうは菱健が東京に出てくる日でした。担当者が変わります・・・とのことで日本橋まで出かけてまいりました。車はまだ十分に乗れますし危険があるとも思いませんが、自分の年を考えて他の人に迷惑がかからないように慎重に・・・と心掛けています。小紋は30反くらいになってしまいまして、みなさまに2か月ごらんいただくのには心細い状態です。わずかですが求めてまいりました。この小紋はちょうど江戸小紋の角通しのような柄です。大きな市松の中に角通しを染めたような感じです。菱健ですから板場の上の仕事です。染め板に生地を張り、型紙を当てて糊を伏せ、地色は引き染めです。プリントでも似たようなものは染めることができますが、ご覧いただきますような柔らかなおっとりとした染め味は出ません。生地と板場の糊伏せと引き染めですので私にも原価の計算ができます。しかし、生地の値上がり、板場の人件費など染める方も求める私たちもよくわかっている状況ですので、お互いにつらい思いでの値決めです。¥79,000、-(別税)でお願いいたします。

菱健ばかりでなくこのクラスの一流の染屋さんの小紋を仕立て上がって10万円まででお求めいただきたい・・・とずっとわたしは申し上げてまいりました。この数年の染め屋さんの生産量の推移をみていますと、将来どのようになってゆくのかほのかに見えてまいります。きものの制作はトップに手描きの創作品の部門があり、つぎに板場での摺り染めや糊伏せの手仕事の染めがあります。つぎに、シルクスクリーンがあり、その下に転写の染めがあります。いまは転写の小紋が全体の90%以上になってまいりました。また、手描きのもっともコストのかかる染めは、少なくなってまいりましたが健闘している状態です。手描きと印刷の染めの間の、板場の手仕事の染めの部門がもっとも少なくなっています。わたしのような小さい店でも、一人二人で制作している手描きのもっとも高級な部分の染めを好まれる方が多くなり、萬葉さん雅さん菱健などの名門の板場の染屋さんのものが少なくなってまいりました。たぶん、この傾向はもっと進むと思います。じっさい、お客様のお話を聞いていますと、目の見える方はプロあるいはプロ以上の鑑識眼を備えておいでです。一方、展示会での販売方法を拝見していますと、暗澹たる気持ちになります。でも、展示会はまだまだ盛況がつづくであろうとおもいます。心痛む業界のありかたですが、お客様の進まれる方向についてゆく以外なさそうに思えます。