きしやさんの小紋Ⅱ


わたしの写真の腕ではとてもこの染め味を表現できませんので、わたしがブログに載せるほど力が入っているのをご覧いただいて不思議に思われるかもしれません。わたしが業界に入りました1960年ころはこのような染めは珍しくもないごくごく普通の手捺染の小紋でした。特別に高額ではなく、いまの相場で6~8万くらいとおもいます。したてあがって10万前後のきものになるでしょう。数年前までは作っていたのですが最近は見なくなりました。写真の小紋はおだやかな自己主張の少ない染めです。コントラストも強くなく、糊もやわらかで、俗にもうします、見せる着物ではなく着る着物なのだと思います。銀座のきしやさんはとても有名な呉服屋さんでした。わたしは納めていた京都のメーカーしか知らないのですが、北秀ともうします製造卸の大きな染め屋さんでした。北秀さんほどの規模で高級品を制作しているところは現在ありません。この作品を拝見しても、生地の吟味(大塚です)、染める職人の気持ちのゆとりを感じます。日本の経済が奇跡的な登り基調の時代でしたから、このような普段の小紋にまでゆとりが与えられた時代ともいえます。全体におっとりとした持ち味があります。流行は変遷しますし、わたしの郷愁かもしれません。また、時代の変化に取り残された老人のくりごとかもしれないとも思います。でも、やはりこのような染め味は評価されてほしいと思います。