山口さん、小平さんの袋帯

左の写真の小平さんは、わたしは存じません機屋さんです。証紙番号が9ですから、よほどの老舗の機屋さんにはちがいないのですが、聞きますと小さな機屋さんのようで、わたしが求めましたところが三柄を各十本織ってもらったとのことでした。展示会の元締めのような存在ですから、発売価格を聴いても意味がありませんが、糸はさすがに若い番号の機屋さんだけのことはあり、軽くていい糸を使っておいでです。訪問着、留袖、あるいは無地の紋付など礼装のおきものに合わせていただきたい格調の高い帯です。織機で織られていますから、手機のような味わいはございませんが、安手に作った帯とはちがい、品の良い重い織の帯地でございます。¥75,000、-(別税)でお願いいたします。

右の山口織物の唐織は、どなともご存知の能衣装を専門とする唐織で有名な機屋さんの帯地です。この山口さんと山城さんが唐織では名を知られた機屋さんで、山口さんは私ごときではなにも言えない大きな存在ですから、山城さんに伺って、倉庫から昭和初期の織り見本を出してもらい、地色を変えたりして織ってもらいました。この帯地は、写真をご覧いただきましても、さすがにいい機屋さんです、織にも品性があり、柄もよく生きています。能衣春秋錦紋の名前の通り、季節を問わずお使いいただけます。年齢の幅も大きく、付け下げ、訪問着と礼装のきものに合わせていただきたい帯地です。¥98,000、(別税)でお願いいたします。

わたしは60年ほど呉服の世界で生きてまいりました。丹後で生まれ、京都で育ち、東京を自分の生きる場所として、過ごしてまいりました。いま、業界を去ろうとしながら、やはり自分が生涯を生きた世界ですから、いろいろな思いが重なって思い出されます。いまさら業界の体質など・・・と申し上げましても、なんの役にも立ちません。その時代その時代で、着る人も作る人もそれぞれの価値観を持って生きているのですから、将来はまた違ったきものを違った価値観で求めていただくお客様がいらっしゃるでしょう。わたしがただいま立っている場所は、いま作られているきもののもっとも高い水準の場所です。白生地、小紋、付け下げ、そして帯地といづれを取りましても、手に入らないものはない・・・と申し上げて大きくはちがいません。しかし、わたしにはどうしても納得できない大きな問題があるように思っています。それは、実需に耐える価格でものが作られていない・・・という点です。だれでもお気に召せば求められる価格で売られていません。いま、トップの手つくりのごくいいものはデパートをはじめ、専門店でもよくお求めいただいています。しかし、もっとも中心になるはずの、中級品が全く低調なのです。原因ははっきりとしています。中級品が高くなりすぎているのです。でも、この流れはだれにも止められないとおもいます。わたしのような「いいものをだれでも求められる値段で・・・」と思うものは存在理由がなくなっていくように思います。