摺り染め小紋

 

この小紋の試作品を拝見したとき、久しぶりに目を見張る思いをいたしました。五枚の型紙を使っての摺りなのですが、難しい染めを・・・・と思いました。この柄は縦にも刷毛が入っているのですが、横柄に見えます。縦横を同じ比率で染め上げますと、50代あるいは60代の盛りの世代の男性にもきっと素晴らしいきものになるとおもいます。この染め上がりは、最初に淡いグレーを引いています。その捨て色をベージュ系にいたしますと、すこし柔らかな染め上がりになります。また、色は消し炭黒なのですが、藤色系ですと穏やかな感じの小紋になります。この染め上がりのすごみ・・・はなくなりますが、それはそれであか抜けた優しみのある小紋になります。試作を通して感じたことは、このレベルの染めを任せれる職人がまもなくいなくなるのではないか・・・との実感です。来年最初の染め上がりになりますが、1反通しての総手描きの小紋は、次回が最後になります。反を通しての小紋を染めれる職人となりますと、手描きの付け下げを任せられる職人でないと染めきれません。反を通しての手描きは手間がかかりますから、職人を拘束する日数が多く、腕のいい職人が少ないなか、付け下げに支障が出るので今回で最後にしてください・・・と言われています。どのような時代がくるのかわかりませんが、わたしはわたしのお客様方と同じ価値観を持っていきてまいりました。それはとても楽しく、日々緊張感があり、充実した年月でした。たくさんの方々におめにかかり、たくさんのことを学ばせていただきました。あとわずかな日々だとおもいますが、自分の価値観で日々を過ごしたいと思っています。