裏地、裾回し。

上にアップしています帯地は、一昨年の作品になります。十二か月の花を小さな円の中に描いています。このような細やかな手仕事もできる職人がまだ現存しているのです。

わたしも年を取り、昨日申し上げておかなければ・・・と思っていたことをすっかり忘れてしまっておりました。裏地と裾回しのことでございますが、裏地は大きく分けて三種類とお考えいただいてよろしいのではないかとおもいます。一つはヤール幅の輸出用羽二重です。そのほとんどは福井県で生産されていますが、14匁付きと16匁付きがございます。1尺角の目方が14匁か16匁かなのですが、男物で16付きを使うことはありますが、女性用には重すぎるようにおもいます。糸質も羽二重に織るものですから吟味されていて、ずっと使っていましても違和感がなく、メーカーによって多少違いがありますが、信頼性の高い裏地だと思います。生地幅が広く、裄が不自由ということもなく、洗い張りを重ねても生地痩せもほとんどありません。他に、小幅の羽二重がございます。こちらが裏地としては最高だと思います。きもの生地が小幅で織りますが、表に添いやすいのは同じ幅で織った裏地が適しているように感じます。ただ、小幅で織りますのは、コストもそれなりに高くなることと、同じ打ち込みの裏地が作りにくいようで、一反ずつ手触りで確認しなければならないのです。産地としては五泉の裏地用の羽二重が最上とおもいます。わたしはコストばかりでなく、同じものを提供し続けることが大切と思い、まず使うことはございません。もう一種類、上州の節絹といわれる、節糸を噛んだ裏地がございます。表が紬地のきものですと、同じ糸を細く使った節入りの裏地がもっとも表に添いやすく、優れていると感じます。上州ものはいろんなブランドで売られていますが、表生地によってはお使いなられるのもよろしいのでは・・・と思います。わたしは、輸出羽二重がコスト的にも使い勝手ももっとも広い範囲をカバーしているように感じ、輸出羽二重を多く使っています。

裾回しにつきましては、呉服屋によって大きく考えが違うと思います。一年に一度くらいしか着ないのだから・・・と軽めの生地を使われる呉服屋さんが多いと思います。呉服屋さんは多くは裾回しは仕立て屋さんに任されます。既成の裾回しは色数が多く、一呉服屋では全色そろえることができません。私はお客様の多くがお茶の方ですので、裾回しの生地が裾で切れることが多いのです。特に先生方は、愛用のお着物は2年くらいで裾が切れます。仕立て替えの費用を考えますと、丈夫な裾回しの方がコスト的に安くなります。そのような考えで、わたしはひとつづつのきものに合わせて裾回しは別に染めております。特に地色の薄い小紋などでは表に段が出ないようぼかしに染めています。わたしは裾回しはとても大切な部分だと思い、最も高くつく五泉のチエニーの1キロ越を織ってもらっています。これは私の経験にもとずいて、もっとも表生地が生きる方法だと思うからです。

すこし生糸のことについても申し上げておきたいと思います。日本の生糸は家蚕と呼ばれいる均一の品質のきれいな繭です。かって日本が絹織物の輸出で生計を立てていたころ、均一の品質を求められ、作り上げた蚕さんです。純粋培養を長く続けていましたので、すこし野性味が少なくなり、粘りと申しますか、丈夫さに劣ってきているのでは・・・と言われています。世界では中国、ブラジル、トルコその他のくにで生産されていますが、日本は中国、ブラジルからの輸入が多いと聞きます。特にブラジルの生糸はヨーロッパの洋服メーカーと競争するほど品質もいいのだそうですが、日本は値段で買い負けているのだそうそうです。数年前に商社の方から聞いたのですが、日本は量は少なくしか買わないのに値段ばかり安くつけてくる・・・と言われています・・・と話しておいででした。