新しいぼかし付け下げ。

 

 

わたしの写真の腕ではとても魅力をお伝えできません。最初に拝見したとき、若いお客様が同席されていたのですが、思わず是非お召しいただきたい・・・と申し上げていました。数色をぼかしてございますが、そこにお召しになられる方のお好みの色を一色ぼかしで入れてもらいます。地色もすこし明るく、若々しい色になされ、お好みの一色はピンク系の淡い色になさいました。染め上がりはイメージが生かされて素敵なさりげない晴れ着になりました。このきものはすでにデパートでわずかですが発売されています。求められた問屋さんは、わたしも存じ上げているのですが、筋金入りのいいもの屋として有名です。はじめてご覧になられて即刻数点注文なさったと聞きます。私の特上品のレベルばかり大変な数の在庫をお持ちです。わたしのお客様でも、この社の展示会でお求めなされる客様がおいでです。でも、私はたとえわたしの価格の三倍しても特上のしなものが多い方がいい・・・と思われるのも、きもの業界にとってはかけがえない大切なお客様だと思っています。わたしは、若いころから毎日がきもの・・・のお客様の御用を勤めてまいりました。安くなければいいものを着続けることはできません。実用呉服がわたしの仕事・・・と思っていますので、有名でありたいわけではなく、まいにちが褒められたり叱られたり、一緒にきものを作らせていただくことが喜びでしたし今も変わりはございません。このような老人になりましても変わりがなく毎日感動したり、考え込んだりいたしております。同じ喜びを共有している人があります。このぼかしを発想し、商品まで持ってきた人です。私より少し若いのですが会うと開発の話で時を忘れて話し合います。彼にとっても私を感動させることは、きっと着る人も感動してくれる・・・と思っていてくれるのでしょう。このきものはお召しになられましたら写真をいただいてご覧いただきたいと思っています。

新しい発想の絽の付け下げ。

 

 

このような絽の付け下げを拝見したのは初めてです。なんともおしゃれ心がありながら、品のいい雰囲気を持っています。染め屋のご主人の発想の付け下げです。いま、染め屋さんはとても苦しい状況です。多くの染め屋さんは開店休業状態です。営業もままならず、わたしの知る範囲ではまったく制作していない染め屋さんもあります。売り先の専門店がほとんど動いていませんし、デパートの展示会なども、数字を聞きますとそうとう苦境だと思わざるをえません。その中で、新しい魅力のある作品を作って乗り越えてゆこう・・・という考え方は私は好きです。じっさいに、この付け下げも、私が入院中に持参なされ、お気に召したお客様がお求めいただきました。わたしは蚊帳の外でしたが、帰宅して作品を拝見して、私でも求めたね・・・と思わざるをえないほど魅力的でした。このような時代にあってこのような考え方で生き抜いてゆくのもなんとも楽しいではありませんか。わたしが支持したい気持ちもご理解いただけると嬉しいことです。

創作の訪問着

 

この訪問着は仕舞や鼓をなさる方のための創作品です。実は、この訪問着の創作もわたしは蚊帳の外でございまして、お客様が染め屋さんと二人で相談なされ、決まってから私にも賛否の意見を求められました。糊糸目の作品ですから、どの職人が糸目を担当するのか、親方しだいです。作品の構想を聞いて、信じて任せるよりいたしかたございません。わたしは染屋のご主人は大工の棟梁のようなものだと思っています。腕のいい大工さんを手元に置いて、腕を十分に発揮してもらえるように運ぶ・・・職人が心服して能力を発揮できなければいい作品は作れません。上の写真をご覧いただきましたように、糊糸目の作品ですから、職人の個性が十分に表現されています。一点作るものとして十分な力作です。また、下の写真の左をご覧いただきたいのですが、染め上がりがどのようになるか・・・わからないので試作をしております。このようなものの作り方は、戦後、苦心して作品を向上させたいと一つ一つの作品に向かい合ってきた人間の発想です。わたしはこのような生き方が好きなのです。苦境に立った時、営業で切り抜けるのではなく、作品に集中して、より良きものに作り、お客様の信頼を得て生き抜いてきているのです。蚊帳の外に置かれましたが、とても喜んでいます。いい訪問着になりました。

 

 

 

誂えのきもの

 

みなさまご無沙汰いたしております。コロナの騒ぎでたきちも半分お休みのような雰囲気なのですが、コロナ騒ぎが収まってからのきものを考えて作っておかなければならない方々もいらっしゃいます。また、なにがあってもお好きで創作に参加なさる方もいらっしゃいます。この方は、たきちばかりでなく、お仕事の関係上百貨店からもお求めになっておられます。ですから、値段のことも視野が広く、私どもにお越しいただいているのは、創作のアイデアや着物つくりに自分も参加し、一つ一つに心込めた作品が作れるから・・・だと存じています。京都の染屋さんまでお越しいただけるようにいたしてございますが、東京で会えるなら便利なことこの上ないとよくご参加いただいています。

上の写真は色の出も悪く、ご覧いただきたくないような写真ですが、下の上前のアップの写真は実物に比較的近いかと思います。このきものは、染屋の親方がこのお客様のお好みをよく弁えて、一点のみ創作して持参なされました。わたしは入院中でいなかったのですが、お客様はとてもお気に召してお求めになられたそうです。そうなんです。このレベルのお客様になられますと、中間の呉服屋は必要はありません。染める人と着る人の二人でお創りになられます。そして、この姿が私の最も望んでいることなのです。店がありますので、足場として、集会所のような感覚でお客様がお越しいただく・・・そのような場所に・・・とおもっていました。80歳を超えて、いくばくかの経費は頂戴しているのですが、この上なくたのしい仕事をさせていただいています。

下の写真は糊糸目の腕の立つ職人の手になる冴えた染めの付け下げです。わたしはこのような作品に出会いますと、感動します。染めを指揮する親方、そして、その指示を受け止めて腕の限り表現する職人。評価できるお客様・・・・わたしが携われることがこの上なくうれしいことです。

入院

みなさまに笑われそうですが、わたし、コロナの疑いで2週間入院いたしておりました。わたしは、みなさまご存知のように、肺線維症(間質性肺炎)の患者です。少し息苦しく、診察をお願いしましたら、病院についたところで、完全武装の先生と看護師の方々に迎えられ、その場でPCRの検査がありました。陰性だったのですが、20%の可能性があるので、完全隔離で、部屋から一歩も出られない生活が2週間あり、帰宅を許されたのですが、糖尿の先生がどうしても調整に時間がかかるとのことで、よぶんに土日をはさんで5日間、結局留め置かれました。ようやく帰宅いたしまして、リハビリの方にお越しいただきながら歩行訓練中でございます。間質性肺炎は症状がコロナによく似ていて、診察を依頼されるとまずコロナを疑うとのことで、まず、隔離のために病院に行ったんだ・・・とおもいました。長く診ていただいている先生ですので信頼していますから、指示の通り過ごしました。なんとも貴重な経験をさせていただきました。医療現場のみなさんの厳しい現状も充分に拝見しました。たいへんな毎日を緊張をもって過ごしておられることに、敬意を払わずにはいられない気持ちでした。以前よりも炎症の数値もさげてもらえ、元気な状態です。まず、遅まきながらご挨拶申し上げます。

コロナ

みなさまお元気にお過ごしでしょうか。何年も経験していなかったような寒気の中、コロナの勢いも深刻です。わたしはコロナ一色になってしまって、他のことは考えられないような生活にはなりたくないと思い、きものの世界もすこしは持ちたいし、きものを愛していただいている方々にも気分転換の一助になれば・・・と思って、書き続けたいと思っていましたが、最近の状況はそうとうに深刻だと思います。しばらくホームページをお休みにしたいと思います。どうかみなさまに於かれましては、お体に気を付けていただき、この大変な状況を乗り切っていただきたいと念じております。

きものの生産の現場の情報に近い位置におりますわたしといたしましては、きもの業界にとってまともになれる貴重なチャンスを与えられている今日の状況をぜひ生かしていただきたいと思っています。基本にかえればごくごく普通のことなのですが、いつか忘れていたものの大きさをこのコロナ騒ぎのなかで業界は思い出していただきたいと思います。また近いうちにお目にかかりたいと願っています。

裏地、裾回し。

上にアップしています帯地は、一昨年の作品になります。十二か月の花を小さな円の中に描いています。このような細やかな手仕事もできる職人がまだ現存しているのです。

わたしも年を取り、昨日申し上げておかなければ・・・と思っていたことをすっかり忘れてしまっておりました。裏地と裾回しのことでございますが、裏地は大きく分けて三種類とお考えいただいてよろしいのではないかとおもいます。一つはヤール幅の輸出用羽二重です。そのほとんどは福井県で生産されていますが、14匁付きと16匁付きがございます。1尺角の目方が14匁か16匁かなのですが、男物で16付きを使うことはありますが、女性用には重すぎるようにおもいます。糸質も羽二重に織るものですから吟味されていて、ずっと使っていましても違和感がなく、メーカーによって多少違いがありますが、信頼性の高い裏地だと思います。生地幅が広く、裄が不自由ということもなく、洗い張りを重ねても生地痩せもほとんどありません。他に、小幅の羽二重がございます。こちらが裏地としては最高だと思います。きもの生地が小幅で織りますが、表に添いやすいのは同じ幅で織った裏地が適しているように感じます。ただ、小幅で織りますのは、コストもそれなりに高くなることと、同じ打ち込みの裏地が作りにくいようで、一反ずつ手触りで確認しなければならないのです。産地としては五泉の裏地用の羽二重が最上とおもいます。わたしはコストばかりでなく、同じものを提供し続けることが大切と思い、まず使うことはございません。もう一種類、上州の節絹といわれる、節糸を噛んだ裏地がございます。表が紬地のきものですと、同じ糸を細く使った節入りの裏地がもっとも表に添いやすく、優れていると感じます。上州ものはいろんなブランドで売られていますが、表生地によってはお使いなられるのもよろしいのでは・・・と思います。わたしは、輸出羽二重がコスト的にも使い勝手ももっとも広い範囲をカバーしているように感じ、輸出羽二重を多く使っています。

裾回しにつきましては、呉服屋によって大きく考えが違うと思います。一年に一度くらいしか着ないのだから・・・と軽めの生地を使われる呉服屋さんが多いと思います。呉服屋さんは多くは裾回しは仕立て屋さんに任されます。既成の裾回しは色数が多く、一呉服屋では全色そろえることができません。私はお客様の多くがお茶の方ですので、裾回しの生地が裾で切れることが多いのです。特に先生方は、愛用のお着物は2年くらいで裾が切れます。仕立て替えの費用を考えますと、丈夫な裾回しの方がコスト的に安くなります。そのような考えで、わたしはひとつづつのきものに合わせて裾回しは別に染めております。特に地色の薄い小紋などでは表に段が出ないようぼかしに染めています。わたしは裾回しはとても大切な部分だと思い、最も高くつく五泉のチエニーの1キロ越を織ってもらっています。これは私の経験にもとずいて、もっとも表生地が生きる方法だと思うからです。

すこし生糸のことについても申し上げておきたいと思います。日本の生糸は家蚕と呼ばれいる均一の品質のきれいな繭です。かって日本が絹織物の輸出で生計を立てていたころ、均一の品質を求められ、作り上げた蚕さんです。純粋培養を長く続けていましたので、すこし野性味が少なくなり、粘りと申しますか、丈夫さに劣ってきているのでは・・・と言われています。世界では中国、ブラジル、トルコその他のくにで生産されていますが、日本は中国、ブラジルからの輸入が多いと聞きます。特にブラジルの生糸はヨーロッパの洋服メーカーと競争するほど品質もいいのだそうですが、日本は値段で買い負けているのだそうそうです。数年前に商社の方から聞いたのですが、日本は量は少なくしか買わないのに値段ばかり安くつけてくる・・・と言われています・・・と話しておいででした。