山ウツギ、夏帯

 

すぐれものの夏帯を楽しみながら、わたしの話にもすこし耳を傾けてください。わたし、先日まで20日ちかく入院いたしておりました。10年ほどまえに発病しました間質性肺炎がすこし進行いたしました。わたしの状態はまだ中期といっていいほどで、生命の危険が差し迫っているわけでもなく、ただいまは投与されたステロイドの量を3ヵ月くらいかけて少なくするように先生に指導を受けています。血糖値を下げることが必要なようで、インスリンをはじめ何種かの薬をへいよういたしております。日常生活は元に帰っていいのですが、わたしは少し糖尿病域でもありまして、病院では食事のカロリーが下がり、退院した時には8キロほど減量していました。80歳で20日間で8キロの減量はこたえまして、帰っても何もできない有様です。この1~2年、みなさまにもう出来ませんと何回か廃業を申し上げてまいりました。でも、みなさまわかったわかったとおっしゃられながら御用を申し付けていただきます。何十年と勤めてまいりますと、多くを言われなくてもご入用なものはほぼわかりますので、お客様も便利な面があると思いますし、わたしも半ばうれしい気持ちがあり喜んでお役に立ちたいと思いました。昨年暮れに暖簾は出さないことにいたしました。朝もすこし楽になりましたが、仕事はあいかわらず多く、いまも到着した荷物をどうしよう・・・とため息をついています。今回は自分の年齢、体力や先の見通しも考えあわせ、今年の暮れで引退をさせていただくつもりです。わたしも大好きな仕事ですので、ついつい・・・になってしまうのですが、最後はきっとみなさまにご迷惑をかけてしまうとおもいます。ただ、みなさまはきものを着続けていらっしゃいますから、お着物の手入れ、仕立て替え、補修など信頼のおける京都の業者をご紹介をして、今年の10月くらいから、取引を試みていただくよう考えています。複数社取引はありますので、相性のいい業者を選んでいただけるようできると思います。買い継ぎの業者に、きちっと買取りをする、責任感のある呉服屋を紹介してよ・・・と頼みまして、この数か月に何人か呉服屋さんにおめにかかり、私の後をできるか話し合ったのですが、世代が違うと申しますか、わたしの呉服屋の仕事とやはりだいぶ違いがあり、断念いたしました。柄の裁ち合わせは仕立て屋の仕事だ・・・という考えはそれはちがいます。呉服屋がすべき大切な部分です。わたしは仕立て屋の裁ち合わせの現場も見ています。それは無責任に通じます。最大の問題は、では、小紋や付け下げ、帯類はなにも提供できなくなるのか・・・なのですが、何らかの方法を考えています。みなさまの手間が多少多くなると思いますが、プロ中のプロがお役に立てるようできる自信があります。仕立てはとても難しいです。わたしが出しているところは、個人の仕事は受けてくれません。いま、1、2候補を考えて話し合っています。いまはそんなことをかんがえています。わたしがボケて(だいぶボケてきています)しまわないうちにきちっとさせていただきます。このような方向に向かいたいと思いますので、早めにどんどんとご要望をおっしゃってください。やはり根性の入った業者は京都が多く、東京の業者はわたしはあまり望みをもっていません。でも、東京の業者をご希望でしたら、ご紹介はできます。

優れもの名古屋帯Ⅱ

 

 

 

右の名古屋帯は山田さんの帯地です。もともと長谷川の持ち柄だったのですが、長谷川が終わるとき、山田さんが引き受けて織り続けておられます。長谷川さんは良品を安くで発売なさる機屋さんで、わたしは長く取引させていただいておりました。山田さんも糸も落とさず値段も変えることなくなさっておられます。この帯はホームページ上で安くお求めいただいたような記憶がございます。特価¥39,000、-(別税)でおねがいいたします。

左の朱地の名古屋は泰生さんの六通名古屋です。最近は考えられないほど帯の品質が低下している中、さすが泰生さんは以前と変わらない品位を保った糸と織りをしていただいています。錦の生地も袋帯の地そのままに織ってもらっています。ただ、いつもう織れません・・・と宣言されるかもしれません。先日、〆切の帯も、努力しましたがぼかしの染めをしてくれるところがなくなりましたので、お断りします・・・と宣告されました。それはともかく、この帯地は小紋にというより付け下げ、訪問着、あるいは無地の紋付など礼装のための帯地ではございます。柄も織も袋帯の品格がございます。西陣の代表的な格調の高い名古屋帯です。わたしが13万でお求めいただいていました。今回は¥105,000、-(別税)でおねがいいたします。

摺り染め小紋、ぶどう唐草

この小紋の染め工場は正確には覚えていません。もし染屋さんを間違いますと、すぐにその染め屋さんから訂正してください・・・と連絡が入ります。正確を期さなければならないのです。ただ、京都の三つほどの染屋さんの作品にはちがいありません。ごらんいただいても地のたたき、摺りの技術のたしかさなど、いい染屋さんにはちがいありません。このような本格的な重い染めのきものは職人がいなくなり、染めることができない時代に入ってきています。どうぞ評価してやっていただきたいとおもいます。¥59,000、-(別税)でお願いいたします。

さくじつ、江戸小紋のシルクスクリーンの作品を探したのですが、すでに染めているところはありませんでした。プリントのものはあるのですが、スクリーンのものは染めているところがなくなっているのです。作家物の江戸小紋は高値で取引されているのですが、すこし下に位置付けられるスクリーンの小紋の製造がなくなってしまいました。トップと下の商品はあるのですが、トップと変わらない制作プロセスを経て作られる中級の小紋が作られなくなっています。わたしはこの中級品がもっとも大切だと思っています。作家物ではない手づくりの小紋をだれでも求めることができる値段で提供することはきものの命なのですが・・・

あけ田、訪問着単色

あけ田さんの単色の訪問着をごらんください。生地は丹後の紬です。紬と申しましても、羽二重のような生地にすこし紬の糸が入っている・・・といった生地です。この生地は男物に使ったり、わたしもいろいろに使わせてもらっています。染めは型友禅です。地は蒔き糊で観世水など三段階の柄の染め分けになっています。爽やかな訪問着で、単衣にも新春から五月ころの初夏くらいまでの袷になさっていただいても絵になるお着物です。あけ田さんはプロの間ではとても評価の高い染屋さんで、摺り染めのものには優れた品物をよく見ます。この友禅は摺り染めではございませんが、染めの切れ味ともうしますか、染め上がりの鮮やかさはさすが・・・と思います。あけ田さんとは古いなじみで、正月には、お年玉の値段でいくつか求めることが恒例になっていまして、申し訳ないと思いながら、値切るのを楽しんでいます。もっとも、お客様にかならず還元申し上げています。

このきものは昨日、お越しいただきましたお客様にお求めいただきました。お願いしてホームページに出させていただいています。あけ田さんの別な一面を多くの方にご覧いただきたかったのです。型友禅には摺りにないこのような一面がございます。機会多くお召しいただく方ゝ、この染めの爽やかさをぜひ身近に置いていただきたいと思います。かっては、古代友禅、加納染工など、型友禅のいい染め屋さんがおいででした。あけ田さんは頭一つ抜け出た、いい染屋さんでございます。

証紙番号700、まことさんの名古屋帯

まことさんの名古屋帯、荒磯紋でございます。むかしからまことさんや丹波屋さん、捨松さん、藤田さんなどは個性的な手織りの名品を作る機屋さんとして知られています。この九寸は、昔から付き合っていたひとから安くで譲ってもらいました。白地に荒磯紋を織りだした上品な名古屋帯です。初釜などに紋付の無地に合わせていただきたい帯でございます。飛び柄の小紋や付け下げに合わせていただいて、柄も品物も十分に対応いたします。¥75,000、-(別税)でお願いいたします。

お正月から、京都をはじめ、業界の方々の見通しを聞いています。素材の絹糸の世界的なひっ迫で、30%くらいの値上がりが避けられないようで、長じゅばん地、無地の白生地、紋意匠、裏地、八掛地などの値上がりは避けられないようです。中国製の白生地は表生地についてはいろいろ問題があり、長じゅばんや裏地が中心になっているのですが、みやこさんのように、中国でスクイを制作をして、「これだけのものを日本人がつくれますか・・・?」と言われるように、とても優れた織物を制作していられるところもございます。藤娘きぬたやさんも中国で作っておいでです。日本製と遜色はございませんが、値段もほぼ同じです。中国の質の高い織物はそれなりに評価をしてゆかなければならないとおもいます。でも、白生地はすこし違うようにおもいます。三十年も以前に、中国で白生地の製造を試みたある丹後の大手の機屋さんが、あらゆることを試みましたが、うまくいきません。最終的に気候風土の違いとしか考えられません・・・と話しておいででした。いまは改善できていますが、わたしは触りましても違和感を感じます。ともあれ、ことしは値上げラッシュになるとみなさん覚悟しておいでです。たきちのことには明日から申し上げたいとおもいます。

新年のごあいさつ。

みなさま、新しい年を迎えられ、お慶びもうしあげます。

わたしども老いてまいりましたが、このように新年を迎えることができました。ひとえに皆様方の     お引き立ての賜物とこころから感謝もうしあげております。

家内も一昨年からの大病を乗り越えて、ただいまは日常生活に不自由はないくらい回復してまいりました。家内は商家の生まれではないのですが、人好きともうしますか、お客様がお越しいただきますととてもうれしく、仕事の上かどうかは関係なく、無上に喜んでおります。どうぞお茶のみかたがたお立ちよりください。

わたしも八十歳を目の前に控えて、来し方を振り返り、たどってきた道と、残された少ない日々をどのように過ごすか、まいにち思い悩みながら考えております。まもなくわたしどもの仕事はじめになります。その節にあらためてご挨拶もうしあげたいと思っています。

平成三十年一月三日       た き ち    室田正三

源氏物語

いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらいける中に、いとやむごとなききわにはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。源氏物語の冒頭です。源氏五十四帖のうち、お好きな物語と、誕生花や、お名前から採った草花をあしらい、デザインを考えて刺繍で柄を作りました。刺繍下にはちりめんを訪問着にぼかしたり、簡単な付け下げを鹿の子の絞りで作ってもらったりいたしました。自分で下絵を描いて刺繍をする人と相談を重ね、一つのものを作り上げるのはとても楽しいことでした。図案や刺繍の現場の写真、お召しいただいた時の写真など、残っているはずなのですが紛失いたしましたようで、わずかしか残っていません。このような楽しいきものも案外高くなくおつくりいただけました。刺繍をする人に年を召された方がおられ、懇意にしていただいていたのですが、刺繍の仕事ができるのならば、値段はかまいませんよ・・・・と言っていただけた、ゆったりとした時代でもありました。この刺繍は江戸刺繍の組合の重鎮の方の仕事です。源氏香はむかしからきものによく使われました。いまも少なくはなりましたがやはり愛されるデザインの一つでございます。昔はなしになりましたが、創作のきものが高くつくということはあり得ません。手つくりのものは10作っても一つ作ってもその手間は変わらないからです。たとえば、写し友禅で、同じ色、柄を10作りますと、これは劇的に加工代は下がります。でも、手描きのものは同じ手間がかかりますから下げようがないのです。いま、問題だと思いますのは、写し友禅でも、10作れなくなったことです。コストが手つくりのものとそんなに変わらなくなってまいりました。それは、とても大きな問題だとわたしは思っています。

年の暮れに愚痴など申し上げて申し訳ございません。よい年をお迎えください。 たきち