源氏物語

いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらいける中に、いとやむごとなききわにはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。源氏物語の冒頭です。源氏五十四帖のうち、お好きな物語と、誕生花や、お名前から採った草花をあしらい、デザインを考えて刺繍で柄を作りました。刺繍下にはちりめんを訪問着にぼかしたり、簡単な付け下げを鹿の子の絞りで作ってもらったりいたしました。自分で下絵を描いて刺繍をする人と相談を重ね、一つのものを作り上げるのはとても楽しいことでした。図案や刺繍の現場の写真、お召しいただいた時の写真など、残っているはずなのですが紛失いたしましたようで、わずかしか残っていません。このような楽しいきものも案外高くなくおつくりいただけました。刺繍をする人に年を召された方がおられ、懇意にしていただいていたのですが、刺繍の仕事ができるのならば、値段はかまいませんよ・・・・と言っていただけた、ゆったりとした時代でもありました。この刺繍は江戸刺繍の組合の重鎮の方の仕事です。源氏香はむかしからきものによく使われました。いまも少なくはなりましたがやはり愛されるデザインの一つでございます。昔はなしになりましたが、創作のきものが高くつくということはあり得ません。手つくりのものは10作っても一つ作ってもその手間は変わらないからです。たとえば、写し友禅で、同じ色、柄を10作りますと、これは劇的に加工代は下がります。でも、手描きのものは同じ手間がかかりますから下げようがないのです。いま、問題だと思いますのは、写し友禅でも、10作れなくなったことです。コストが手つくりのものとそんなに変わらなくなってまいりました。それは、とても大きな問題だとわたしは思っています。

年の暮れに愚痴など申し上げて申し訳ございません。よい年をお迎えください。 たきち