手描き小紋Ⅰ

 

 

先月から申し上げておりました手描きの小紋が染めあがってまいりました。さいごの作品になりますがどうぞご覧ください。私たちの年代の人間は、どうしても職人へのこだわりがあり、好きなタイプがあるのです。このような小紋は付け下げを染める職人でなくてもできるのでは・・・と思うのですが、何十年も最上のものを作りたい・・・と思って日を過ごしてきた者は、どうしても妥協ができないのです。落としてものを作るのなら作らない方がいい・・・と思うのです。それくらいの気持ちが無ければ、仕事はどんどんレベルが下がります。この柄は2尺5寸の柄を下絵として描いています。ガラスの間に挟み、下からライトを当てて図案の上に生地を置き、ゴム糊で糸目を置いてまいります。一反ぜんぶ糸目の糊を置いて、柄の部分に防染の糊を伏せます。次いで地の色の染めに入ります。わたしはこの反物はブルーを基調に染めてもらいたかったので、色は厳密にではないのですが、指定いたしました。地色が染まりますと、蒸気で蒸して色を定着させ、柄の部分の糊を洗い、柄の色の手描きに入ります。この色挿しがきものが生きるかどうかの職人の感性です。つい、目立ちたくて強いタッチの色を挿したくなるのですが、お召しいただくお客様が、何十年も付き合って飽きの来ない品の良さが求められます。色挿しに入りますとわたしは一切口を出しません。染め屋の親方と職人の間のやり取りを信じてお任せいたします。途中でストップをかけました・・・と聞くこともあり、職人の感性を特に褒めておられることもあります。一つ一つがその時のベストを尽くして染めています。この柄はもうおひとり、違った感性の色挿しでおつくりいただいているお客様がおいでです。いま、色挿しまで進行していますので、染め上がりはお客様のご了解をいただいてご覧いただきたいと思っています。わたしはこの染め上がりは、自分の最後のこのクラスの作品として、とても満足しています。みなさま、着てみたいというお気持ちがございましたら、ぜひ声をかけてください。ご覧いただいた通り、付け下げを染めるよりうんと手間はかかっていますが、けっして付け下げほどの値段はいたしません。なお、生意気を申し上げますが、大手のたくさん染めるような染め屋さんではこのような作り方は出来ません。一つ一つを手作りで染めている染め屋さんで初めて手掛けることが出来ます。いくら京都が大きな染めの世界を持っているとはいえ、このような作り方は出来なくなってきていることはだれしも感じているところです。