都鄙問答

三宝寺2-500

石門心学は江戸中期の石田梅巌の著書を出発点点として、その後のお弟子さんたちの完成させた哲学です。都鄙問答では商人としての心構えを説き、その高い倫理性が後世まで影響を与えました。渋沢栄一、松下幸之助、稲森和夫さんなどにその影響を見ることができます。基本的な考えは、商人の利潤は武士の俸禄と同じで、生活の糧として必要なものだが、自らをつつしみ精励努力し、誠意をもって仕事をしなさい。浮利を求めるべからず・・・・

その後、資本主義の大波にのみこまれ、経済学の解説書などでも2~3行触れられているだけで、ほとんど無視されています。とくに、新自由主義と呼ばれる国の規制や関与を排除すべきといった思想とは大きく違います。現代は資本が巨大になって、国でさえ隷属するような立場です。日本のバブルの崩壊もリーマンショックの後始末も国が膨大な資金を投入してしりぬぐいをしました。いま、人々の幸せより資本の自由のほうが優先されている実感があります。本末転倒というべきでしょう。せめて着物業界だけでも国内だけの小さな市場なのですから、資本の論理から外れてみてはいかがでしょうか。

経済成長

シンビジュウムの花-500

バブルの崩壊から、日本はほぼゼロに近い経済成長の時代に入っています。同じように低成長の時代として江戸時代が参考になるのではないでしょうか。江戸時代は家屋をはじめとして使い捨ての文化でなく、耐久財の生産が中心でしたから案外豊かな生活であったろうといわれています。住宅は100年は持ちますし衣類も二世代、三世代と着継げます。また、収入の比較としても、農民所得を100として、工商人160、支配者177、。イギリスの工商人が205、支配者468。インドは工商人372、支配者2563との調査結果があります。日本の江戸時代は世界的に見ても、経済格差の少ない社会不安のすくない平和な国であったろうと思われます。そのような時代に導く考え方が基底にあったはずです。

あるべき指針

菱健・付け下げ・菱取り-500

資本は利益の最大限の追及を目的とする・・・・誰でも知っている資本主義の定義です。でも一人勝ちになった近年の資本主義のあり方は暴走気味で、人々の幸福を阻害する方向に走っているような面がありはしないか・・・・と感じています。グローバルな企業にとっては競争相手がありますから致しかたない面があると思うのですが、着物業界はマイナーであり、日本の国内市場にふさわしい発想を持たないと現実と大きく離れてしまうでしょう。業界は本来最高峰の工芸品のイメージを汎用品にまであてはめています。実需の世界は実用の価値でお求めいただくべきでしょう。富士山の高い峰は広い裾野があってこそ存在できます。多くの方が小さな負担でたくさんきものを着ていただく日常なしに、明日のきものなどあり得ないでしょうに・・・・そういった意味でも、着物業界だけでも石門心学の精神を持っていただきたいとこころから願います。このページをお読みいただく方の半分くらいは業界の方ですのであえて提言申し上げます。

いけません。

歩道から水面を望む-500さしめ雨コート地-500

上の写真は昨年桜の咲く時期に三宝寺池で撮影しました。ちょっといい雰囲気でしょう?下の写真は雨コートの最高級品として知られた生地です。先月日本一といわれる展示会で52万円で売られました。2年前に27万で売られ話題を集めました。織機で織りますから一点ものの創作品ではありません。いいものですが汎用品です。わたしは恥ずかしい思いでおります。わたしも利益なしでは成り立ちませんが、これはルール違反ですよね。でもわたしのこのような告発もルール違反でもあるのです。関係者と話しても「もうけるためにやっているんじゃない!」といわれます。でもわたしにはきものの葬式が始まったような気がします。とても悲しんでいます。

 

実用きものとは・・・・

菱健彩色小紋部分-500

せんじつ、あるお客様が来店のおりこんなことを話されました。「年金生活の私でも出来上がって10万円くらいのきものなら、帯とセットで年に二組くらいは作れるのですが・・・・」実用きものを心がけているわたしとしては、このような言葉は身に沁みます。実用きものとは、生地の糸質が良く、染めものであれば染色が深く、二世代三世代着ていただいて飽きのこない高品質のきもののことです。作家ものといわれるきものであっても、小紋で10万円くらいで仕立てあがるのでしたら立派な実用品です。また、プリントの染めで、横に並んだ時浅薄でがっかりするようではコストとして高いですからとても実用きものとは言えません。わたしはこのような原則は時代を超えて変わらないと思っています。わたしたち業界が原則から逸脱したときは、ふさわしい答えを着る人たちから受け取ることになるでしょう。(値段はただいまの時点の額ですが) この方はお茶の歴史が長く、着物がどうしても必要な方で、ご主人と一緒にお越しになられるのですが、わたしは御用をさせていただくことがとても楽しく呉服屋冥利尽きると思っています。

春まだの三宝寺池

三宝寺池のこぶし-500三宝寺池の春-500

昨日はあたたかく、久しぶりに三宝寺池の散歩を楽しみました。20度を上回る春の気温なのですが、木々はまだ冬の眠りから覚めていませんでした。こぶしの花芽もまだ固いままで、池畔の景色も緑はまだまだ・・・の感じでした。春の景色にはまだ旬日かかるのでしょう。

午後、業者の方に最近の動向を聞きました。デパートの催事の結果。そして、出品者別の成績など・・・・ある商社の成績が話題になりました。近日中に出かけてみようかな・・・・と思っています。

時代の流れ

菱健・付け下げ・花-500

業界の出荷の移り変わりを見ていますと、昨年から今年にかけてすこしづつ低下しています。染めやさんでも帯の機屋さんでも、どんなものでも作らせてもらいます・・・・ご注文いただきたい・・・・といわれます。見込みで作るゆとりがなくなってきているのです。また、買い継をはじめとして問屋、呉服店も可能な限り借りて営業をしたいと考えています。いまは業界全体の8割くらいが仮需要であろうといわれています。つまり展示会などに出荷して売れない分は返品・・・・するような営業形態です。生産者がリスクをかけてもの作りができなくなったのはこの辺に主な原因があります。デパートは膨大な量の展示をいたしますから、買い取っていたのでは半年くらいで在庫の山になって立ち行かなくなります。デパートは昔からメーカーのショーウインドウでしたし、それはとても貴重なことでもありました。高くてもいいものがたくさん揃うから・・・・でも、日本中デパートと同じ営業形態になってはいけないでしょう・・・・毎日がきものの生活の方々にとっては負担が大きすぎるでしょう・・・・きものは着る人があってこその存在です。わたしたち業界の姿勢が問われていると思います。まず、着ていただく方々の立場に立って考えてみましょうよと、折りあるごとに業界の人々に話しています。